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コミュニティ形成のための中間領域理論
一級建築士 伊志嶺 敏子 女史
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PROFILE
宮古島出身で、ご自身が育ってきた宮古島の住環境の原型は何なのかということをつぶさにいろいろな形で歩き回り、自分たちの原体験と設計のソフトをもう一度つなぎ合わせようということから始められ、個人の生活と共用空間の関わりについて研究・提案。豊かな外の環境、豊かな人の関係と自分のプライバシー空間とゆるやかにつなぐ暮らしを提案され、沖縄県営団地の再生事業や市営住宅、個人住宅など数多く手掛けられている。 |
<伊志嶺さんには、宮古島でやっていらっしゃる賃貸の県営住宅、市営住宅の具体的なお話をしていただきましたが、そこの何軒かを見ると、各個人個人の生活が共用空間側にあふれ出しているという感覚が非常に伝わってまいりました。個人の生活の中に、非常に豊かな環境がありました。
いかに生活者が当たり前に豊かな環境を自分たちの手でつくっていけるか。逆に言うと、その受け皿としての環境がどうあるべきかというところがすごく重要で、その辺が今回のお話の中で重要なポイントでした。
それが伊志嶺さんの得意な中間領域理論です。単純にハードとしての中間領域ではなく、豊かな外の環境、また豊かな人の関係と自分のプライバシー空間とを緩やかにつなぐことで、人はより外環境を使うようになるという話です。>

これはどこの住まいかよくわかると思います。これは沖縄の伝統的な住まいです。沖縄の典型的な集落の敷地割は、正確には南ではないのですが、どの敷地も全部明るい場所です。南東であったり南西であったりと、敷地の向きが大体決まっています。普通は道路を挟んで家と家が向き合う形ですが、沖縄の伝統的な集落は全部同じ方向を向いているわけです。ですから全面道路はほとんど専用通路の形を持っております。
竹富島に行きますと、まだこういう民家が残っています。それはパブリックな場所からプライベートな場所に徐々に入っていくという空間構成があるわけです。つまり表通りから、敷地内に入ると、屏風(ひんぷん)という、つい立て状の壁があります。これは石垣であったり、ブロック塀、板垣、生け垣ですが、目隠し状にストレートに見えないようになっています。
これに当たって右回り、左回りに入っていきますと庭がありまして、だんだん家に近づくわけです。そうすると表のほうには客間、仏間、茶の間があって、奥へ行くと寝室というふうにだんだんプライベートな部分へ入っていく段階があります。それを私は中間領域と称しているわけです。
私自身、このところ十数年間、ずっと公営住宅の設計を手がけてまいりました。これはその中で一番冒険的でしたが、沖縄県で初めての公営住宅の建てかえです。そのときに敷地が限られていることと、当時は第1種住専でしたから高さの制限もありました。いろいろなことで低層高密度を考えないといけないということで思いついたのがこの中間領域を活用した方法でした。
先ほどお話ししましたようにプライバシーのグラデーションということで、お互いにベランダ越しに向き合っていても別に構わない。気配がわかる程度でいい。そして決して見えては困るという寝室。それを中庭を挟んで振り分けていく。だんだん奥へ行けば行くほどプライバシー度が高まっていく。先ほど竹富島の住まいの空間構成を向き合わせてみたわけです。

中庭といいましても光庭みたいなものですから、6メートルぐらいの距離しかありません。その中に東西軸の中庭と南北軸の中庭ができますが、これは東西軸の中庭の午前中の光の様子です。ヤシやパパイアの木が、鳥が種を落として自然に生えてきた状態です。これは南北軸の中庭です。光の様子が違うと思います。これは先ほどのものよりも比較的新しいです。私は屋外の設計をやらせてもらっていなかったものですから、余り植え込みはしていません。どちらのほうにオープンスペースがあるかということで光の当たる量を感じ取ってほしかったものですから、こういう写真を出しました。
平面的にいいますと、これは純粋に階段室型ですが、一つの階段を四つの住戸で共有するというものです。まず自分の領域のポーチに入ってきます。この扉をあけますとエントランスコートになります。エントランスコートは一つにつながっているわけです。
エントランスコートにちょっとした腰高さのそで壁を設けることによって、リビングコート、サービスコートと分けております。エントランスコートからそのままLDKに入っていくわけです。そして続き間がありますが、宮古の人たちは何かあるたびに親戚、友達が集まって一緒に宴会をすることがよくありますので、こういう続き間タイプは好まれます。実際に感想を聞きますと、ここだと何人でも集まれるからいいと。こういうふうにつなげるわけです。
これもまずセミプライベート、プライベート、プライベートという感じで、完全にプライバシー度の高いところに来るわけです。この辺に水回りが来ます。宮古島は特に湿度が高いところですので、どうしても水回りは外気と接したいという考えがありまして、台所はここです。ここにトイレ、おふろ場があります。おふろ場からそのままサービスコートに出られます。
このタイプはどうしても片廊下型、外廊下型でいくことが大事ではないかと思いました。それともう一つは、先ほどのは壁構造でしたから間仕切りを取り払うことが大変難しかったので、これからはスケルトン・インフィル――後で知った言葉でしたから当時はそんなことも考えなかったですけれども、もっと自由度の高い構造にしていきたいということで、ラーメン構造で階段室型をやめて片廊下型にしていくと考えたのがこのタイプです。
外廊下が通っていまして、住戸の部分がこれです。その間に吹き抜けをつくって、ここで1クッション置くわけです。逆梁(ばり)にしまして、廊下とバルコニーのレベルを500ぐらい段差をつけます。ですからここに階段がありますが、外廊下を通る人の目線と中の人の目線はずれます。外廊下を歩いていて、ここが開放されていても、500ぐらい下がっていますと大体、頭から胸ぐらいの高さの違いですので床の面が見えません。
つまり床の面が見えなければ、このぐらいの距離で向き合っていても人間の気持ちは割合平気です。人間の暮らしは床に張りついています。当然ごろ寝も床に張りついていますので、床の部分が見えないということがとても重要なポイントです。ですからこういう階段をつけるということも、やはりだんだん上に上がって自分の場所に入っていく装置としてはいい効果を生むものだと考えています。
先ほどから言っております私の中間領域の話は、つまり外部空間の庭、それから廊下がありまして、その間に吹き抜けがあります。そしてそれに向き合ったベランダがあります。そしてLDKに入ります。先ほどから説明しておりますように、中へ行けば行くほどプライバシー度がだんだん高まってきます。それから外へ行けば行くほどテリトリーの拡大、自分の領域がどんどん広がってきます。
つまり段階としてはパブリックな場所がありまして、吹き抜けの部分がセミパブリック的は距離になるわけです。扉をあけますとセミプライベートな場所になります。外とのつながりがあるので、完全なプライベートではないという意味でのセミパブリックです。入っていきますとプライベート、さらにもっとプライベートな領域が出てくるわけです。

また先ほどの中間領域の話に戻りますが、これは沖縄県営平良団地のコンセプトをまとめた断面の漫画です。以前は表側の通りよりも下がって、裏の通りよりは上がっているというような現況の地盤がありました。そして南向きの平行配列の住棟でしたから、住棟と住棟がすごい暗くて陰気くさい。きょう参考にお配りしましたものにエピソードが書いてありますが、ハイリスク地域と陰口をたたかれるような危なっかしい団地でした。

その建てかえをしたときにまず考えたのは、表の通りと同じレベルで向き合うということです。これでレベル調整をしていきますと、ちょうど車が置けるスペースがとれました。車が置けるスペース、あるいはポンプ室、雨水タンクをこのレベル段差の中で埋めることができました。
そしてこの中庭は南北軸に長い中庭ですので、光の量はずっと安定して入ってきます。こちらは西側で、こちらは東側です。東側の光は夏場はすごく暑いので、この外廊下がちょっと調整してくれます。西側のベランダは奥行きのある場所もありますので、強い西日がどこまでもずっと入ってくるわけではない。ところが浅いところは洗濯物をよく乾かす場所になっている。この中庭を挟んでそういうようなグラデーションがどんどんかかっていく。
そして中庭は住棟の配置計画の中で明るい場所ですので、家庭菜園も設けております。ですからこちらの棟の人たちは直接ベランダ側からおりていけるようになっています。私は住宅を管理している公社の方に、1階には土いじりの大好きな方にぜひ住んでいただきたい。そういう方たちは1日でも土にさわらないと禁断症状が出ますからと、積極的にそういう方たちに1階に住んでもらうと屋外空間がもっとすてきになっていくという期待を込めて、お願いしました。
それからここには子供たちが遊ぶような割と広めの中庭もあります。それとのかかわりも出てくるわけです。お向かいの民有地の人たちとも同じ目線で向き合えるということ、この団地の人たちもこの地域の住民だという意識を持ってもらいたいという気持ちがありまして、もうハイリスク地域ではないという感じで生き生きと暮らせるようにと考えました。
そんなふうに中間領域で逆にこのスペースを保障してあげて、だんだん自分の家らしさを積極的に外に向かってつくっていくことが、いわゆる一くくりに団地の人たちではなくて、自分たちも地域の一員であるということが知らず知らずのうちに自然にできてくることがいいなと思っています。住まいの持つ力はそういうものだと思います。知らず知らずのうちにそういう心持ちになっていく。そういうことが住まいづくりに求められていると思います。なかなか的確な答えがつくれてはいませんが、それがずっと抱えている私のテーマだと思っております。
さきほど漫画で見ていただいた団地はこんなふうにできました。これは東側のほうです。2期工事がまだ続いていましたので中途半端な写真になっています。これは西側のとてもきれいな海水浴場が見えるベランダです。この団地には七つのタイプの住戸があります。民間のマンションからしたら大した数ではないと言われながらも、私は公営住宅で七つのタイプがありますと自慢して言っています。

これは中間領域の典型的なシーンだと思ったものですから写してきました。ここに住んでいる方がどんどん広がってきているわけです。最初はこの辺で自分の家らしさという感じでとまっていたんですが、「これは私の庭よ」という感じで広がってきているわけです。これは1階の部分ですけれども、路地風にどんどんできてきています。上から光が入ってほどよい明かりとれる。陰があって、涼しい風がここで起きてくるわけです。南に開放したからといって涼しい風ではないということです。陰があって初めて涼しい風になります。

このお宅もこのようにどんどんお隣まで広がってきました。自分の家らしいものは団地の人でも欲しいんです。つくるのが欲しいんです。豊かな時代というのは、表現の場があって初めて豊かさを享受できるのではないかなと思いますし、またそれを望んでいると思います。このようにヨットのハンドルを飾ったりして、僕は海が好きなんですと言っているような、すごくアピールする表情があるわけです。
こういう表現のできる場所をちょっとつくってやる。そして誘い込む。例えばこれも普通でしたらメーターボックスなのでガチャッと扉で閉めてしまいますが、わざわざ露出した上でコンクリートでちょっとしたカウンターをつけてやる。そのことでこういうものが誘われて出てくるわけです。これを始めるとどんどん進出してきます。これは木製の扉です。そのことも、結構ここに自分の〔家だし?〕、ウエルカムという名前があったりします。
それからこれは設計上に入れましたけれども、しめ縄を飾っていただきたいというような意味でフックがついています。コンクリートの家はどうしても金物類を後から取りつけるのは、素人ではちょっと難しいものです。人の暮らしの表現のシーンというのは大体わかりますから、予測した上でこういうものをつけることを設計の仕様書の中にも盛り込んであります。これはガーデニングの本に載りそうなシーンだと思って写してみました。
この敷地は南のほうに傾斜していますので、場所によっては段数の多い場所があります。段数の多い場所はその日は扉が閉まっていましたけれども、案外開放的に暮らしている場合があります。ですからいかに目線との距離があるか、お互いの距離があるか、レベル差があるかということです。ここにもすだれをおろさないで、結構開放して暮らしいるという姿があります。

最上階に上がりましたらこういう場所も出てきます。一番上の階はわざと外廊下に屋根をかけずに露天状にしています。ちょっと上に上がってくると少し地上っぽい感じが出てきていると思います。これは3階です。中間領域がこのようにはみ出してきているわけです。すごく天気のいいの日曜日でしたけれども、そのとき見た布団干しがカラフルできれいでした。よくベランダに布団を干すのは景観を著しく阻害するという話がありましたが、この場所は案外いいなと思ったものですから写してきました。
これは平良団地とは違いますが、いま工事中で、1棟完成して入居4カ月弱のところです。私のもくろみに誘われて中間領域がこうやってずっとはみ出してきています。ちょっとお花屋さんのようなすてきなお宅がありましたから、写してきました。こんなふうにこれがずっと連続していくといいなと思います。
こんなふうに自分の家らしさを皆さんはつくりたいんです。その仕掛けがあるとワーッと一気に出てきます。このフェンスも私は設計の中に入れていなかったですが、自分たちでつくってこうやっています。そういうふうにちょっと日曜大工でもやれるかなという場所を意識的につくっておくと、そのとおり出てくるという感じで少しうれしくなりました。一番お花のいっぱいあったお宅です。これもこのように自分たちでつけるようになっています。
ここの場合は、割合開放的な暮らし方もあるなと思いましたので、引き戸にしています。そしてそれぞれの家で扉の色が違います。さっきありましたようなフックは最初から設計の中に入れました。そうするとトールペインティングの趣味の方ではないかと思いますが、自分の家らしく自己表現しているわけです。そのお宅の玄関先から見ましたら、やはり出たところで自分の目線の中に入るように外廊下に花鉢が広がっていました。ざっと中間領域の話をさせていただきました。
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