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暮らしスタイルマガジン
「てまひま手帖」

パパとママがこだわり抜いた 三人姉妹と暮らす家

お客様インタビュー (更新: )

楽ではないけれど、楽しい暮らし“てまひま暮らし”を実践している人を訪ねる企画「てまひま暮らし人」。第15回は、編集部がてまひま不動産(練馬店)の設計担当の設計スタッフとともに、東京都練馬区にあるお宅を訪ねました。

築25年の中古マンションの最上階を購入してリノベーションし、家族5人で暮らす小今井家。柔らかい陽射しが差し込む室内では、柱のないおおらかな空間を娘さんたちがぐるぐると走り回ります。基本設計は妻の由季恵さんが自ら担当し、コンセプトとD.I.Y.は夫の政文さんが担当したそう。子どもの成長を見据えた、“つくり込みすぎない”家づくりとは?

間取りにとらわれず、最大限に広く使う

政文さん先生、ようこそ我が家へ!

設計スタッフその呼び方、なんだか照れますね(笑)。

政文さん僕らにとっては、まさに建築の「先生」ですから。先生が提案してくれた回遊プラン、娘たちにも大好評です。

政文さんと由季恵さん、三女のあさちゃん(1歳)。ご夫婦はふたりとも建築やインテリアを学ぶ専門学校出身で、昔から変わった間取りに暮らすのが好きだったそう。

てまひま不動産(練馬店)の設計スタッフ。今回は設計監修を担当。

設計スタッフそれは良かった。おふたりはいつからリノベーションしようと思っていたんですか?

政文さん僕らはふたりとも建築やインテリアを学ぶ専門学校出身なので、家そのものに対する興味はずっとありました。リノベーションを考え始めたのは5年前から。結婚してから4回ほど引っ越しをしたのですが、どれも賃貸で、「もっとこうできたら良いのに」というモヤモヤがあって。それで、思い切って職場と実家がある練馬区で家探しをはじめました。最初は戸建てで探しました。

天井を抜いたことで吹き抜けのような開放感が生まれたリビング。奥に座っているのは、長女のりたちゃん(7歳)と次女のかえちゃん(5歳)。

編集部最初は戸建て希望だったんですね。

政文さん戸建ての方が広さを確保できるかなと。でも、練馬の相場が思っていたよりも高くて……。そんな時、このマンションが3,000万くらいで売りに出されているのを見つけたんです。小学校の時に友人が住んでいたマンションで、68.92㎡とある程度の広さもある。内覧したら見晴らしも良くて、「買います」と即決でした。

由季恵さん主人の実家の屋根が見えるほど近くて。それに、以前暮らしていた賃貸の家は実家との間に大きな道路を挟んでいて、子どもだけで行かせるのは正直怖かったのですが、この家なら実家へのコースも安全というのも決め手でした。

政文さん最初からリノベーションするつもりだったので、不動産担当者には「ボロボロのまま売ってください」とお願いしました。その代わり、少し値引いてもらいましたけど。

編集部基本設計は由季恵さんが担当されたそうですが、ご自身で設計されながらも、てまひま不動産に設計監修を依頼したのはどうしてですか?

政文さんマンションは個人所有の専有部分といってもすべて自由にリフォームできるというわけではなく、法律や規約に基づいて行うことが原則となり、いくつか制限があるんです。加えて、構造に手を加えたり、床面積が増えたりすることで固定資産税が上がってしまう場合もある。工務店に持ち込んで自分たちだけでやるのか、設計から相談できる会社にお願いするのかで迷っていました。そんな時、たまたま西武線のドアに貼ってあるてまひま不動産のステッカー広告を見つけたんです。Facebookで検索してみたら雰囲気が良さそうだったので、さっそく内覧会に参加し、そこでお会いした営業の樋口さんに妻が描いた図面を見せたんです。そしたら、「うちの建築士を紹介しますよ」とすぐ繋げてくれました。

由季恵さんそれが設計スタッフ先生との出会いだったね。夜な夜なふたりで考えたプランを見せて、悩みの種だった「とにかく古い家の間仕切りが多いのが嫌だから、ワンルームにしたい。だけど、配管の関係で、キッチンは動かせない」ということを相談したら、細かな間仕切りを取り払い、キッチンを中心にして回遊できるワンルームのプランを提案してくれました。

由季恵さん手描きのリビングのイメージ図。

設計スタッフキッチン周りが壁に囲われていたので、すべて取り払ってしまえば開放感も生まれて、お子さんたちも走り回れると思ってね。

政文さんさすがだなと、お願いすることに決めました。

設計スタッフ設計監修という形でのサポートも、リブランならではかもしれませんね。私はおふたりの知識の豊富さに驚きました。マンションはあらかじめ間取りが決まっている場合が多く、それを前提に考えがちだけど、小今井さんたちは間取りにとらわれず、「ここをこうすればもっと広く使える」と考える。実際に、この物件も天井も抜いて高さを上げられると見抜いていましたからね。

政文さん「何LDK」って信じてないんです(笑)。ここは最上階で、もともと天井収納があると記されていたんですが、立面図を見た時に「それ以外の天井には何が入っているんだろう?」と思って。半信半疑で現場工事の時に壁だけ切って開けてもらったら、何もなかった。だから、「行けるぞ!」と。結果的に体積が約1.5倍に増えました。

リビングの収納として設置したのは、無塗装のラワンで造作した大きな木箱。子どもたちが、その上の空き空間を遊び場にするようになり、「いつかは、畳を敷いて漫画スペースにしてあげたい」と政文さん。

インスピレーションを生かした小さなこだわり

設計スタッフ玄関土間から曲がって廊下、キッチン、リビングでドンと天井が上がる設計がとにかくドラマチックですよね。

政文さん妻が伊礼智さんという建築家が好きなのですが、わざと天井に高低差を生むという手法が使われていたんです。書斎スペース横にある障子も、伊礼さんが障子を面光源として使っていることにヒントに、あえて残しました。

設計スタッフあとは土間を広げたい、子どもたちの部屋をつくりたい、ということもおっしゃっていましたね。

小さかった玄関は廊下の途中まで土間にすることで広さを確保。

由季恵さん前の家は玄関が狭かったので、外出の度に、家族が玄関にたまってしまい、「早くして!」と急かさないといけないのが大変で。空間が広くなって、心に余裕も生まれましたね。

設計スタッフその土間を抜けると右手にキッチンがある。こちらは政文さんのセルフビルドですよね。

配管だけ業者に工事を依頼し、政文さんが二日掛かりで設置して仕上げたというシステムキッチン。

政文さんYouTubeで「キッチンはセルフで簡単に設置できます」と謳っている動画があって信じましたが、あれは嘘ですね(笑)。まず、加熱機器周辺の壁面に取り付けるキッチンパネルが重すぎて大変。そして、僕が手配した商品では、規格のままではレンジフードとコンロとの距離が近くなりすぎるため、カットしなければならず、これも大仕事でした。しかも、そのレンジフードが全然切れなくて。

壁材とキッチンが接する小口を美しく見せるため、キッチンパネルと壁材の間にLアングルを挟んで立たせることで、接地面のディティールを隠した。この由季恵さんからの要望が「もはや素人に依頼するレベルを超えていた」と笑う政文さん。グレーの壁紙は調湿性のある珪藻土クロス。

編集部悪戦苦闘ですね……。最終的にはどうされたんですか?

政文さん知り合いで板金屋さんがいたので、無理やりお願いして切ってもらいました。「素人は『さぶろく』以上に手を出してはいけない」という良い教訓にはなりましたね。

編集部さぶろく?

政文さん江戸時代の尺貫法の長さの単位で、3尺×6尺で「さぶろく」と呼んでいたんです。現在のメートル法で表すと約909ミリ×1818ミリ。そのサイズを超えるスケールならば、プロに頼むべき。

設計スタッフあと、無垢材の床に巾木(壁と床の境目に取り付ける部材)がないのも、建築やインテリアを学ばれたおふたりならではのこだわりですよね。通常は壁と床にできる隙間を隠すために間に木材を取り付けるのですが、それを付けないことで床から壁が直線でピシッとつながりすっきりとした印象になります。

キッチン横の部屋は夫婦のベッドルーム。今は家族全員でここに布団を敷いて寝ている。

左が一般的な住宅で見かけることの多い巾木。右が小今井家の床で、巾木がない分シャープな仕上がりになる。床材は憧れだった無垢材(杉)を敷いた。

政文さんただ、巾木が無いと掃除機のヘッドが直接壁にぶつかるというデメリットもあって。それでどんなふうに傷が付くのかを確認するために、賃貸に暮らしていた時に無垢材を購入して部屋に貼って実験してみたんです。掃除機で壁を傷付けないかけ方を編み出して、これなら大丈夫だと。

編集部ちゃんと試してみて、決められたんですね。

政文さん壁の珪藻土クロスも、まるで塗り壁のようで気に入っています。仕事で温度や湿度を管理する機械をつくる仕事をしているので、湿度にはうるさいんです。

設計スタッフ気温が同じでも、湿度や風の有無、日差しの有無により、体感温度は違いますからね。

政文さんそう。たとえ30度でも、湿度が低ければ涼しく感じる。無垢材にも室内の湿度を調整する「調湿効果」があるので、絶対に取り入れたい素材のひとつでした。

洗面台用には既製品のミラーキャビネットにLEDをテープで取り付けて自作。トイレには作家・谷崎潤一郎の随筆『陰影礼讃』に習い、陰影の美と美の目的のための陰影を生んでくれる照明器具をセレクト。

子ども部屋は、住みながら少しずつ整える

編集部ずっと気になっていたのですが、リビングに設置されたこの大きな木の箱の中身は……?

木の箱は大型クローゼットとして大活躍。洞窟のようなおこもり感が政文さんのお気に入り。今はデスクを箱の外に置いているが、中に入ることも可能。

政文さん収納です。実はもともとこの箱を3人分均等に区切って、それぞれに二段ベッドを置いて子ども部屋にしようと思っていたんです。ワンルームだと個人の部屋が無くなるので、プライバシーを確保するためにあった方が良いのかなと。でも、リビングに設置すると来客が来た時に子どもたちが居づらくなるかな、と思ってやめました。結局、子ども部屋はキッチンの裏側になりました。

ベッドルームから子ども部屋とリビングを見る。「おもちゃはそれぞれの名前が書かれた袋に入りきる量だけ」というのが小今井家のルール。

由季恵さんワンルームの場合、家の半分をプライベートスペースとパブリックスペースに分けて捉えることもひとつのアイデアですよね。手持ちの家具などを置いて緩やかに区切れば、窮屈さも生まれないので。

設計スタッフ子ども部屋のつくり方は、私も興味があるテーマです。小さいお子さんと暮らすなかで、自分の居場所がある方が落ち着くという子もいれば、そうじゃない子もいる。最初から部屋を決めてしまうよりも、それぞれが「欲しい」と思った時に自発的に居場所をつくってもらうほうが面白いと思います。

政文さん今やテレビやPCはポータブルなので、何かあればそれを持って逃げ込める場所があるだけでも良いのかもしれないですね。例えば、狭小空間に、こもりたい人だけが順番にこもるみたいな(笑)。予約表とか書いておけばコミュニケーションも生まれるし、楽しそう。ただ、以前考えた子ども部屋のプランが良すぎるから、やっぱりつくりたいなぁ。

由季恵さん娘たちは自分のものにこだわりがあるから、いつでもプライバシーを確保できるようにはしてあげたいよね。最初は3部屋の仕切りはつくらず、必要に応じて後から差し込むプランはどう?

設計スタッフいいですね! 私もぜひそのプランに参加させてください!

木の箱に登ってリビングを見下ろす、子どもたちのお気に入りの風景。テレビ台や子ども部屋など、まだまだつくりたいものが尽きないふたり。

子どもが小さい時、成長した時、その時々で暮らしやすい家は違うもの。がちがちに決め込んでしまうと、その後の融通がきかなくなるので、自分たちで工夫を加えられる余白はきちんと残す。そこには、家族とのコミュニケーションが豊かになるヒントがありました。


企画:てまひま不動産 株式会社リブラン
⽂:原⼭幸恵(tarakusa)
写真:土田 凌(提供写真以外)